anxiety-始符-



「慧・・音・・?」
月の光は本来の半分しか入らない夜の部屋。
泣きじゃくる私の音しかなかった部屋に、障子を開く音と共に私のものではない音が耳に届いた。
布団で泣いていた私は声の主が誰だか直にわかった。
身体を起こすとそこには妹紅がいた。
「も、妹紅・・!」
直にでも走り寄りたい気持ちで、立ち上がろうとすると足に力が入らなく、ガクッと身体が崩れ落ちそうになる。
「おっと!」
妹紅は持っていたお盆を片手で持つと、私の崩れる身体を空いた手で支えてくれた。
「まだ病み上がりなんだから無理をするなよ。」
私は妹紅の身体に腕を回して力の入らない足の変わりに抱き付く事で耐えていた。
ゆっくりと妹紅は腰を下ろしながら私を布団の上に座らせる。
「うっ・・うえぇぇん・・。」
「ちょっ、ちょっと!?」
目の前の確かな存在に私はうれしさの余りに抑えることができず、しがみ付いたまま泣いてしまった。
妹紅は突然の事でどうしたものかといった感じで戸惑っていたが、少しして私の頭を優しく包むようにして抱え、髪を撫でた。
 まだしゃくりながらも一通り泣き終えた私を見て妹紅は何か話題をと考えた。
「えっと・・そうだ、何か食べる?御握りならあるけど、お粥とかの方がいいよな?ちょっと作ってくるから待って――。」
立ち上がり部屋を出ようとする妹紅のズボンの裾をくいっと摘まむ。
「今日は・・ずっと一緒に居て欲しい・・。」
私は我が侭だとわかっていながらも、それでも今日だけは今の二人だけの時間、一緒に居たいという気持ちが強かった。
妹紅は私の我が侭を聞いてくれたらしく、再び座ると気恥ずかしそうに視線を外しながらぽんぽんと自分の太股を叩いた。
その様子が何だか可愛いやら可笑しいやらで、泣きべそをかいていた顔が一新して顔がにやけてしまう。
「な!?わ、笑うなよ・・っ!」
薄暗い部屋なのに妹紅の顔が赤くなるのを感じた。
私はくすくすと笑いながら身体を後ろ向きにして、妹紅の足の間に座る。後ろに寄りかかると妹紅の身体に当たり、体温が伝わってきた。
「妹紅温かい〜・・。」
「からかうなよー!」
私は目を瞑ってしばらくの間ずっとこうしていた。
特に何かしている訳ではないけれど、こうしている時間がとても心地よくて何かが満たされていくような感じがした。

 慧音を身体で支えていてしばらく経ったころ、慧音の反応がなくなりどうすればいいのか困っていた。
慧音はもう寝ているのだろうか。耳に届くのは安息な呼吸音だけ。
下手に動くと折角安静にしている慧音を起こしてしまうのでは、と気を使いながらも奥底では、このままでいたいという気持ちもあった。
私はまだ今の慧音のようにストレートに気持ちを伝えることができない。でもこうして一緒にいる時間を大切にしたいと思っていた。
 私もこのまま寝られればいいのだが、支えている手前寝るわけにもいかず目も冴えていた。
何となく、慧音をもっと見ておきたいと思って肩の上から覗き込むようにして様子を見てみる。
ある程度予想は付いていたが、慧音は目を閉じて無防備な状態でいた。それと同時に大きな胸が目に入った。
うわ・・、私のと違って大きいな。
私には無い、慧音のものを触ってみたいと思ってしまった。
もちろん、思ったからって本当にしてはいけないという認識はあった。
あったものの、あまりに無防備な姿であった為に、少しくらいなら大丈夫だろう・・と思ってしまった。
私は片方の手を前へと伸ばすと服の盛り上がり、慧音の胸の前まで持っていき、親指と人差し指で摘むようにして――。むに・・。
「ん・・・・。」
服の上からでも、柔らかなものを感じる。
でもそんなことより、声を上げたことに起きていないかと不安になったことと、今まで聞いたことのない慧音の色声を聞けたこと。
慧音の反応に私はドキっとしてしまった。そして困ったことに私は後者に心が引かれてしまった。
慧音は未だ変わらず無防備なままでいるのを確認し、今度は両手を胸に伸ばすと抱えるようにしながら胸を掴み、むにむに・・むにゅ・・と二度三度と胸を揉んだ。
「んんぅ・・んぁ・・。」
段々と慧音の息が荒くなっていき、私自身も心臓がドキドキと高鳴っているのがはっきりと分かる。
私はもっと見たことのない慧音を見ていたくて、遠慮がちに動かしていた手は気付けば容赦なく何度もふくよかな胸を揉みしだいていた。
慧音に身体をピッタリと寄り着き、慧音の体温も感じていた。
 私はそのうち服の上からでは物足りなくなっていた。実際には十分ではあるけども更なる進展、新しいものを求めていた。
息を荒げてはいるものの抵抗は何も無く、やはり無防備なままであった。
私は喉を鳴らし、上着に手を伸ばし弛ませ腰の辺りまで下ろすと白い肌が姿を現した。下着も手際よく外しに掛かり、二つの大きな乳房がぽろんと露になる。
今起きたら言い訳のしようがない。後戻りができない。
私はそれを覚悟して、再び手を伸ばした。
 服の上からだと揉んでみないとその柔らかさが分からなかったのが、今は下から手で支えているだけで、胸の重みだけでその柔らかさがわかる。
私は時間と共に沸き起こる衝動が抑えられず、手が動いた。
「うぁ・・。すご・・柔らかくて気持ちいい・・。」
思わず声に出してしまう。先ほどまで注意を払っていた気持ちが抜けてしまうほどに、動く手の形に合わせてぐにぐにと豊満な胸が形を変える。
はっ・・ぁんん・・と息を荒げながら、慧音は身体を小さく捩るようになった。
これ以上続ければすぐにでも起きてしまうだろう。そう解っていながらも私の手は止まらず、むしろその様子に興奮してしまった。
 乳房を揉んでいるうちに柔らかい胸のなかで相反して堅く突き出るもの、ツンと乳首が先を尖らせて主張していた。
私は既に歯止めが利かなくなっていて、人差し指と親指でコリっと摘むと捏ね回した。
「ひゃん――っ!?」
慧音の身体が突然、胸の先端を摘む指から逃れるように仰け反り、目を見開いた。
「な、なにをして――っ!?く・・んんぅっ――。」
目を覚まし抵抗をする慧音を胸へと伸びる腕で押さえつけつつ、指に力を加えて押し潰すようにしながら乳首をくりくりと転がす。
慧音は抵抗を試みるも、胸を責められるたびに身体が反応してしまい力が思うように入らず、妹紅が優位に立っていた。
力で押し付けられ抵抗できない慧音は涙を浮かべながら私を口で戒める。
「こんなことして・・ぁんっ・・いいと思って――。」
「悪いと思ってる・・。」
悪いと思ってる・・。だけど・・。
「だったら・・あっ・・こんなこと止めて・・。」
「私は・・慧音みたいに立派な人間じゃないから・・。」
私は責めの手を止めて、慧音をぎゅっと抱き締める。
「全然・・慧音が起きなくて、それを毎日・・毎時間見続けて・・。ずっと・・ずっと不安で一杯だった・・!」
一週間。寺小屋でやってきた、一見、充実のある生活。沸き起こる気持ちで上塗りされ隠されていた。密かに行われた心の防衛。自分の事なのに知らないうちに隠してしまっていた本心。
「私は・・一緒に居るだけじゃダメなの。・・それだけじゃ私は安心できないの!」
抱きながら、慧音の背中に向かって、自分でも今気付いた本当の気持ちを打ち明けた。
 慧音は黙ったままで、私は何らかの反応を欲していた。
彼女の反応次第で私はこんな事を止めるつもりでいた。
否、そんな建前よりも、私の気持ちを慧音に汲み取って欲しいと沈黙の間、願っていた。
ここで無理に推し進めるという行為は信じる事をやめたと同じ事で、私は慧音が答えを出すのをただ信じて待っていた。
「私も――。」
暫く黙っていた慧音は沈黙に乗せるように静かに言葉を紡ぐ。
「私も・・不安だった・・。だから――。」
私は慧音の言葉を最後まで黙って聞く。
「だから今度は――ちゃんと向き合って・・しよ・・。」


つづく



もどーり