月の光を浴び、紅色に染まる館。
咲夜は館主へと紅茶を淹れる。
ふと外を見ると、紅い月が曇りなく黒の世界に飲まれることもなく在り続けていた。
「そういえば・・私がこの館に来た日もこんな日でしたよね。」
「そうだったかしら?」


 館の最奥に位置する部屋。レミリアは椅子に腰を下ろし、机の上で手を組んで待っていた。
部屋の奥の扉が静かに開くと一人の黒い服を着た女が部屋へと入ってくる。
「こんばんわ、待っていたわ。まずは名前を聞かせて貰おうかしら――。」
彼女は何も言わず、慣れた手つきでナイフを取り出すと館主の額に向けて投げた。
「名前くらい言ったらどうなのかしら?」
投げられたナイフは椅子に突き刺さり、レミリアはその僅か上、椅子の背もたれの上に座っていた。
間髪入れず彼女は再びナイフを手に持つとレミリアへ向けて投げられる。
追撃で何度も投げられるナイフはレミリアの軌跡を追いかけるようにトトト…ッ!と床や家具等に突き刺さる。
何度も小刻みなカーブを描きながら飛び回るレミリアに当てるのは困難で、未来を読めない限りは当てる事など不可能に近い。
力押しでは通用しないことがわかり、連続で投擲されていたナイフの攻撃が一瞬止まる。
レミリアはその一瞬の時間が攻撃の切り替わり時だとこの2回の攻撃で感じていた。
次はどんな攻撃がくるのかと彼女を見ると突然視界から彼女の姿が消えた。
瞬き一つしていないのに消えた彼女の居場所は殺気という形で伝わってきた。
後ろを振り向くと彼女の姿があり、既に投げられたナイフが何十本と並んでいた。
レミリアは振り向いた勢いをそのまま利用し身体を一回転させると、黒い羽を広げてナイフを叩き落した。
「少し、貴女に興味が沸いてきたわ。」
口の端を上げて笑って見せる。
再び彼女の姿が消え、後ろを見るとナイフがまた何十本と飛んできていた。
同じように払い除ける事もレミリアの技量を持ってすれば余裕であった。しかしそうせず、自らナイフへ向かって突っ込んで行く。
身体にナイフが刺さっても怯むことなく進み、彼女に爪を食い込ませてがっしりと捕まえた。
「っ!!?」
彼女は声には出さないが顔を歪ませ、痛みを感じていた。
「今度は貴女の声が聞いてみたいわ――。」
レミリアは牙を突き立て、彼女の首元に口を近づけ――ゾブリ。
「――ああああああッ!!」
レミリアの口元から鮮血が流れ、焼けるような痛みが彼女を襲い掛かる。


 紅茶を覗き込みながらレミリアは当時を思い返していた。
「あの時はちっとも喋らないから血の通ってない人形なのかと思ったわ。」
「あの時は・・そのっ色々あって――!」
咲夜は慌てながら口を動かした。
「咲夜。あの時――私と出会えて良かったわね。」
「はい!お嬢様。」
慌てた心を落ち着かせると、感謝の気持ちを込めて返事をした。

 光のない夜。夜に一際光を放つ月。
光を見失った夜は、紅い月に惹かれていった。


-fin-



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