anxiety-産霊-


 空を遮断するように突然地面が天辺へと伸びる崖の下。
妹紅「次から次へと、一体何処から湧いて出てくるのかねぇ。」
一人の人間に相対する様に三匹の名も知らない妖怪が立っていた。
妖怪長女「人間はいつだって!」
妖怪次女「私たち妖怪の餌なのさ!」
妖怪三女「よ・・妖怪三姉妹、参上!」
三人で一つのポーズを決め、後ろからドーンと音が聞こえる気がした。
妹紅「はぁ・・。いい加減ただの妖怪と付き合うのには飽き飽きしていてね。」
熱が空気を伝わると同時に人間に炎の翼が生えていた。
妖怪長女「あれ、私達のポーズにツッコミなし?」
妖怪次女「折角考えてきたのにね。」
妖怪三女「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」
火の翼に加え、手にも炎が灯る。
妹紅「この炎で、肉は勿論骨も残らず焼き尽くしてあげる。」
妖怪長女「むむむ、我ら生まれは違えど死すときは同じ時と決めている!」
妖怪次女「姉者・・。」
妖怪三女「おねぇ・・。」
妖怪長女「だが今はその時じゃないので逃げる!」
妖怪次女「流石だな姉者!」
妖怪三女「何だよそれぇえええええ!!」
逃げる妖怪達の背中で、妹紅がタンッとリズム良く地を蹴ると勢い良く空へと飛び上がった。
下の妖怪達が砂煙を巻き上げながら必死に逃げているのが見える。
しかし、妹紅の視線は飛んで尚も上を向いていた。

 崖を滑るように炎の翼が昇っていくとそこには新たな妖怪――体毛の目立つ大きな蜘蛛が待ち構えていた。
大蜘蛛「隙を窺っていただけなんだが、気付いていたとはな。」
妹紅「・・前々から私を見てたでしょう。いい加減視線が気になって仕方がなかったのよね。」
大蜘蛛「気付いていたとはな。なら、今この場で不老不死になると聞く蓬莱人の生き肝を戴こうか!」
プッ!っと音がすると口から細く小さな針が複数本、妹紅に向かって飛び出した。
妹紅「へぇ。私が不死の身体と分かっていて挑んでくるとはね。関心しないな。」
妹紅はこちらに飛んでくる光の線を見つけると針と針の隙間、身体ギリギリの隙間を擦り抜ける。
避ける事が困難だったという訳ではなく、単に敵への最短距離で且つ最大速度を乗せて必殺を可能にする為だ。
大蜘蛛「なっ、あんな僅かな隙間を潜ってこれるのか!?くそっ、自棄だぁああ!!」
大蜘蛛の体毛が逆立ち、硬く針状になると一斉に体外へと打ち出される。
大量の毛針に臆して速度を落とすと踏んでいた大蜘蛛であったが目に映るは死へのカウントダウンだった。
大蜘蛛の読みとは裏腹に、火の鳥は寧ろ速度を上げて行き、弾幕を抜けると炎を灯した手を大蜘蛛の顔へと押し付け――。
妹紅「不死、『火の鳥−鳳翼天翔−』!!」



 寺小屋での授業を終え、差し入れのおにぎりを入れたカゴを片手に妹紅の住居へとやってきた。
ドアを軽く叩くとコンコンと乾いた音が室内に呼びかけるのが聞こえる。
慧音「妹紅、差し入れを持ってきたんだけど・・。」
中からの返事の音が無く、居ないのかと思いそろぉーっとドアを開けて家の中を確認しようとすると突然。
ドォォオオオオオオオンッ!!!
慧音「ひっ!!?な、ななな何!!?」
突然の爆音に驚き、思わず持っていた差し入れのカゴを落としてしまった。
まずは落ち着かなきゃと思い、すーはーすーはーと乱れた呼吸を落ち着かせる。
落ち着いてきたところで頭を働かせる。この当たりで爆音がなる原因は一つしかない。
妹紅は音のあった方に居ると判断し駆け足で行こうとすると、足元に落としてしまったカゴに気付く。
カゴを拾い上げるとおにぎりがひとつ落ちてしまい、泥が付いてしまっていた。
残念な気持ちが湧き上がったが、また今度作って来ようと思った。
落としてしまったおにぎりの処理をどうしようと考えていると、そこに調度小鳥が来て啄ばみ始めたので、落ちてしまったおにぎりはその小鳥にあげる事にして走っていく。

 断崖絶壁とも言える大きな岩がごろごろしている場所で行き止まりになってしまった。
ここまでの道のりに戦闘の跡はなかった。妹紅が戦った後は大体火を使った跡があるので煙なり焼け跡なりでわかるのだ。
慧音「となると・・この上ね。」
崖上を目を細くして見上げると調度、翼を持った何かがこちらへと降りてくるのが見える。
妹紅「ん・・慧音?こんなところでどうしたんだ?」
慧音「妹紅!えっと・・し、心配して見にきただけで・・。」
どうしてだか、顔が熱くなっている。
トン・・と妹紅が地面に足を着けると翼が消えた。
妹紅「前にも言ったように、私は老いることも死ぬこともないんだ。慧音は心配性だなぁ。」
そう言って妹紅の身体が近づき、腕をまわして私を包むと顔の横に頭を寄せる。
私の身体は抱かれる事に不慣れで、強張ってしまってきっと抱きづらかったと思う。
妹紅「心配してくれてありがとう。」
慧音「ぇ・・ぁ・・、ぅ・・ん」
声が出なかった。少しずつ離れていく妹紅の身体。
妹紅「食べていいのか?」
慧音「た、た、食べていいってっ!?な、ななな、何を!!?」
妹紅「そのおにぎり。」
お・・?おにぎり・・!?
妹紅が差す指の先には私の持つ差し入れのおにぎりが入ったカゴ。
妹紅「少し行ったところにいい場所を見つけたんだ。そこで食べないか?」
慧音「あ・・はは。うん。」
乾いた返事と共に私は妹紅と何でもない話をしながら並んで歩いた。

 妹紅の案内で少し崖沿いに進むと滝が流れる場所があり、ほとりの大きな岩に並んで座る。
慧音「こんな場所があったんだ。」
妹紅「最近少しずつ知らない場所を散策していてさ。その時に見つけたんだ。」
そういっておにぎりを一口含み口を動かして食べる。
妹紅「ん?私に何か着いてる?」
慧音「べ、別に何も!!」
あぁ・・何を慌ててるんだろう私は。今日の私は私らしくない気がする。
妹紅「何か・・慧音らしくないなぁ。・・変なものでも食べたか〜?」
慧音「変なものなんて食べません!!」
全力で拒否する。全く、子供じゃないんですから。
慧音「って・・あれ?」
妹紅「ん・・?」
妹紅のズボンが赤色で分からなかったけど、足首の当たり血が滲んでるような・・。
それを確認するために血色の部分に近づく。
慧音「妹紅、ちょっと足を見せてみなさい。」
捲り上げると足に傷はないものの、小さな針の様なものが一本、再生した皮膚の下に埋まっていた。
慧音「ちょっと、妹紅ここ見て!」
妹紅「・・・・・・。」
慧音「ねえ、・・聞いてる?」
顔を上げると息を荒くし、汗を酷く流して倒れている妹紅が目に入った。
慧音「・・嘘・・でしょ?」
頭から血の気が引いていく。貧血を起こしたかのように突然目の前の光景を受け入れられなくなる。
だって・・さっきまであんなに元気にしていたのに・・。

つづく 次:anxiety-野符-



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