anxiety-国符-



 心配はいらないと言った。それでも私は心配し続ける。意識してしまう。
里を隠してから何度目の夜の訪れ、夕暮れだろうか。服をボロボロにしながらも私は考え事をしていた。
何日も寝ることも忘れて只管に続く妖怪の襲撃を撃退し続け、たまの休める時間も物思いに使っていた。
里の人と過ごし、守り続けてきた。妖怪から人を守るために戦ってきた。
今回も同じ、人里の人間ではないけれど、妖怪から人を守るために戦ってる。
でも、その二つは何か違う。『差』があった。
その何かとは助ける人が違うからと言われればそうかもしれないし、人であって人ではないからと言われればそうかもしれない。
私自身で違う何かを感じているものの、はっきりと何かはわからないのだ。
 そうこう考えてるうちにまた妖怪がこちらに来るのが見えた。
今夜は満月だ。普段は人である私が獣となる条件。ハクタクになることができる。
妹紅の歴史を食べることはできなかったがハクタクの力があれば・・歴史を創る程度の能力で、治してやることができる。
『妹紅の身体から毒が抜ける』という歴史を創ってしまえばいい。
だから、夜まで乗り切ることさえできれば兆しが見える。
慧音「さぁ、最後の弾幕を始めようか。」
 妖怪に向けてスペルカードを唱える構えをする。
慧音「始符、『エフェメラリティ――」
??「覚神『神代の記憶』!!」
空に光の線が何本も走り、網状に結ばれていく。光の網羅に捕らわれた妖怪は次々と消滅していき、全滅。
永琳「ふふ、お邪魔だったかしら?」
声の主は妹紅の復讐の相手、輝夜に仕えている八意永琳だった。
親しい妹紅の復讐の相手の身内とはいえ、この状況。助けに来てくれたのだろう。頼もしく思い、緊張が解れつい本音が出てしまう。
慧音「正直言って、助かった・・。後は満月の夜さえ来てくれれば――。」
永琳「満月は来ないわ。」
慧音「え・・?」
私にとって満月は特別な時。そんな満月がくる日、周期を間違えたことなど一度もなかった。間違うはずはない。
慧音「そんなはずない・・。今夜は満月のはずだ!だって今も空にある月を見て――。」
途中で言葉が止まった。永琳が言った意味が分かってしまったから。
何でこんなことをするのかと、しかもよりによってこの日に、こんな時に。
空に月はある。満月でもある。しかし、その満月は『偽者』だった。
まだ大して日が経っていないあの異変、事件。珍しい二人組み、人間と妖怪のペアが人里へとやってきた”あの日”と同じ月が空に浮かんでいた。
慧音「何で・・こんなことするの・・?」
永琳は真剣な顔をして、無言のまま私を見ている。
慧音「黙っていないで、答えなさい!!国符『三種の神器・・玉』!!」
怒り任せに永琳へと弾幕を飛ばす。
??「難題『火鼠の皮衣 -焦れぬ心-』」
目の前に何かが割り込み、動物の毛皮が展開される。私の永琳へと放った弾幕は毛皮に触れると弾幕は打ち消され、永琳に弾一つ当てることすらできなかった。
輝夜「こんばんわ、妹紅の付き人。」
割って入った張本人、蓬莱山輝夜は余裕の面持ちで挨拶をしてきた。苛立ち、怒りが込み上げてくる。
慧音「こんなことをして、何が目的だ!」
輝夜「怖い顔しないで。噂を聞いてね。何でも人里で匿ってる人間を倒せば蓬莱人が食べられるんだとか。」
慧音「・・・・お前達も・・妹紅が狙いか・・。」
輝夜と永琳、二人は答えない。輝夜は相変わらず締まりのない顔でにこにこしていて、癇に障る。
慧音「お前達を妹紅に会わせるわけにはいかない!国体『三種の神器・・郷』!!」
広く、広域にわたる私の撃ち出した弾幕に簡単に飲み込まれる輝夜。所詮ぐーたらなお嬢様、口ほどにもない。
輝夜「貴方が私に勝てるわけないじゃない。難題『仏の御石の鉢 -砕けぬ意思-』」
弾幕の中から声が聞こえると、弾幕の中から閃光が走り抜け出てきた。
それが何なのか察した私は辛うじて身を投げ出すようにしてなんとか避けることができたものの・・。
慧音「あ・・れ・・?」
身体が言うことを聞かない。
輝夜「攻撃が止まってるわ。難題『龍の頸の玉 -五色の弾丸-』」
五色のレーザーを私に向かって撃ち続けてくる。頭では避けなくちゃと思っているのに、身体が言うことを聞かない。
慧音「なんでっ!?」
避けることも出来ず、ドガッと音を立てて直撃を食らってしまった。
 意識はあるのに、私の身体は地に落ち、倒れて起き上がれなくなっていた。
慧音「なんで・・動かないのっ・・!」
私の目の前に輝夜が降りて言う。
輝夜「さて、貴方の負けよ。能力を解いて人里を戻して貰いましょうか。」
慧音「・・・・やだ。・・嫌っ」
私の身体はいつの間にか震えていた。
慧音「妹紅を・・失いたくない・・。お願い・・見逃して・・。」
自分でもびっくりする程に声が震えていた。目が熱くなっていて、私は泣いていた。
永琳「身体も動かせないのに・・強情なんだから・・。」
そういうと私の身体を抱きかかえる。
慧音「えい・・りん?」
永琳「すぐ楽にしてあげるわ。」
チクッと私の身体に何かが刺さった。
慧音「ぁ・・・・・・。」
目の前が真っ暗に眩んできて、目を開けて居られなくなる。そして段々と意識が保てなくなっていく。
そんな・・。私はここにきてやっと気付いたのに。里の人と妹紅との『差』が何なのか。
半獣である私の一生は長い。里の人間を一人一人見てきた私にとって、親と子の関係に似た感情を抱いていた。
だけど、妹紅に対してはもっと知りたい、妹紅には私のことを知ってもらいたい。
いいえ、もっと単純な気持ち。
ただ、一緒に居たかった・・・・。

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